いつのことか、とりあえず僕が物覚えがつくかつかないかのころなのは確かだ。水のなかに絵の具が落ちて混ざらずに絡み合ってマーブルを描いている。僕はそこに紙を保母に言われるままに浸した。色鮮やかなマーブルが紙へうつってゆく。それがひどくけだるかった。
「この爪、ウォーターマーブルっていうの」と言って僕に爪を見せて来た女がいた気がした。毛の中に顔を絡めさせたような、いや顔に毛を絡めているのか。ピーナッツオイルのような香りに浸った部屋で僕は友達が彼女を落とすのを見ている。うらやむべきかわからなかった。
 百年の言語がこじれて、僕にたしなみを教えてくれたのはいつからか。火の扱いを覚えて壮年になった皺の絡み出した男は、よろこんで肉体労働に打ち込んで我を忘れさせてくれた。彼に老いは若さを失ったのじゃなくて若さを辞めたのに過ぎない。それがひどくけだるい。
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