上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
「なんで俺が応援したのに負けるんだ」と厚い眉毛の老人が勃起した陰茎を路上に置かれた障子に突き立てていた。障子は乾いた音をたてて破れ、それを見た年増は持っていた化粧ポーチを力一杯障子にぶつけた。本は見事、的に当って路上に落ちた。 彼は昇天した。
 そのとなりにはたくやとひろしとひろやの三人が昇天している老人の息子の機嫌をとっているのだが、息子はどうも影がうすいのか、怒っているらしいことはわかるのだがどうもよく見えない。そもそも近くにいるツバメの巣のような頭をした老人が張りのない声をマイクの音量を精一杯上げて「かいよーかいよー」言っていたり有名なおふくろが歌ったり聴衆たちが熱中症で倒れたりしているのでもうなにがなんだかわからないのだが、とにかく残りの十八人が見当たらないし、権力のすきな嫌われ者はまだ生きている。
「なんかお祭りみたい」と美幸は言った。白い無地のTシャツに同じく白でレースのショートパンツを履いてすっきり伸びた脚の先で履いたパンプスだけが黒い。彼女はしっとりと首筋に汗をかいていた。
「お祭りだよ」と隣の多久が言った。多久はなぜだか肌を隠したがる。この熱さのなかでもまるでそういった生理的な機能を持ち合わせていないかのように汗一つかいていない。「なぜか全国みんなお祭り状態なんだよ」
「でも困るな。人が多すぎて行きたいところへ行けない」彼女は駅の近くにあるパティスリーのモンブランが食べたくなっていたのだった。紐状のクリームをフォークで切り分けてしまうことや、その舌触りを楽しむうち口中からこぼれそうなほどひろがる栗の香りを想像するともう行けないと今日がだめな一日になってしまうように思えてならなかったのだ。
「構わないんだよ美幸がお金を使えなくても」と多久は美幸のために人々の群れを押し分けながら進んでいく。「結果的にお金が使われているから大きな目でみればプラスなんだ」
「そんな大きな目をもった大きな人には栗の味なんてわからないのに」
「仕方ないよ、選挙になると繊細なものは見放されるし、繊細さを見放すことが喜ばれる。どんなに良い食事を普段食べていようとこの時ばかりは牛丼やミラノ風ドリアを食べなければならない。そして選挙が終わるともとの生活に戻ってメディアはその繊細さをつつく」
「ふーん」
「どうしてこういった政治的な人混みは夏休みのディズニーランドやUSJよりも進めないのかというと、ここにいる政治的な人々みんなが応援している自分を迷惑そうな顔をして抜けていこうとする人々に優越感をみせしめたいからなんだよ。彼らは声をあげずに物事を推し量って自分なりの判断を下す人々を理解できないから、自分たち未来を憂う優秀な人々と、間違った未来を望む敵対勢力と盲目的な烏合の衆しかこの世にいないと思っているし、そう思うことで自分たちが気持ちいい。より気持ちよくなるために身体をぼくらに押し付けてこすり上げようとしてくるんだ」
 もう美幸は聞いていなかった。
 美幸は多久の手を頼りに人々の間を進んだ。一歩一歩足をすすめるたびに、周りの人々はあえぐようにごうごう唸った。身体は暑くぐったりしているのに、彼の手をつかむ掌と人々の声が吸い込まれてゆく耳のなかだけはひんやりとしていた。マイクの声がゆっくり彼女から遠ざかり、その分光が濃く強くなっていった。
 途切れることなく、人々は泣き続けていた。人混みを抜けると、外の明るさが一瞬にさえぎられめまいがした。波のように押し寄せてくるスローガンに神経を集め、しばらく足をとめているとうすぼんやり奥にたたずむパティスリーが見えてきた。美幸は破壊された繊細なモンブランを食べるために、パティスリーに向かって歩き出した。
関連記事
スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。