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いまさっきメルボルン旅行から帰ってきて多くのホームレスを見たばっかりだったからなかなか入り込んでくる小説だった。オーストラリアには日本よりもはるかに多くのホームレスがいる。カフェの客に物乞いしてくるホームレスを追い払うのが仕事の一部になっていたくらいだ。

普遍的なものを描こうとするよりも作家自身の直近の不安をそのまま想像力にあてはめた作品だ。ホームレスに対する社会の冷たさから日本社会の規範から外れたものたちへの排他性の高さなどを伝えようとしているのがうかがえる。

ホームレスの生活にもいろいろあるようだが、すくなくともここで詳しく説明されているのは極めて典型的なホームレスだ。山中などの自然が残るところに潜むのでなく都市の出すゴミを回収してまわり金に変えて生活している種類のホームレスだ。
ホームレスの柳さんはこのところ弧間川という東京と神奈川の県境になっている架空の川を居にしている古参だが、このところ人が増えてきていると思っている。以前結論ありきの取材をしにきた無礼な記者木村はホームレスになったといって柳さんを頼ってきた。寄付のしすぎで破産したという木村に柳さんは呆れるも面倒をみるようになる。しかしなにか正義らしいことをしなければ気の済まない木村は河川敷一帯のホームレスたちに毎日挨拶をし認められホームレスたちの戸籍のようなものを作るようになる。同時進行的に、付近にできた排他的な高級住宅街の影響もあり街はどんどんホームレスに厳しくなってくるようになり彼らを野良ビトと呼ぶようになり、彼らが街を徘徊するのを追い払う自警団も現れるようになる。木村は次第に旦那に耐え切れなくなって逃げ出した三村母娘、ミサンドリスト風の女ホームレスさくら、群馬から流れてきたロヒンギャのアルなど仲間を作って、自治会長となってくる。アルが日本人でもないのに炊き出しなどの恩恵をうけるべきでないとリンチを受けているところに木村は割って入り自分のいうことを聞けないやつは日本人だろうが食うものはないと宣言する。そのとき急に作者自身が飛び出してこれは自分を木村とした回想のようなものだと言う。もともと社会や集団に嫌気のさしていた柳さんは潮時だと思って移動をきめる。その次の日、街は一晩のうちにホームレスたちが水飲み場を利用できないよう河川敷からそこへ至るルートに鉄条網をめぐらした。一致団結して撤去しようと木村は計画したおり、河川敷が金をもらったホームレスたちによって放火される。アルも日本人は嫌いだと言って参加していた。その後だれかに殴られて倒れた木村や三村母娘などをリヤカーに乗せて柳さんはその場を脱出した。

展開はなにかとコミカルに進んでいく。それ自体はこの年代の小説にはよくあることだ。漫画やドラマのようなテーマへ直接沿う説明的あるいは予定調和的な会話が随所に出てくる。決してそれ自体悪いことではない。なによりも平明だ。また作者による自分自身が木村だという宣言のおかげでこの小説が柳さんに捧げられたものだということがとても明確になっている。木村は所詮社会の内側からの目を捨てられず柳さんになることはできない。それはホームレスでない人々による政策では決してホームレスを救うことなどできないという強烈な主張になっている。

望んで自らホームレスになっている人間は一種のアナーキストだ。そう思うからこそ国際スポーツ祭典とかいうオリンピックとしか思えないイベントや安倍政権への批判とみなせる部分に柳さんをからませてほしくはなかった。未来での回想という形式のために必要だったのかもしれないが、別にマジックリアリズムも当たり前の時代だから直接オリンピックと言ってしまってもよかったんじゃないだろうか。そのために多少無頼の雰囲気がなくなったのではないかと思える部分もある。しかしホームレスのありかたについては考えさせられるいい小説ではあった。

気になった点といえば、白いウインドブレイカーだかを着た男が消毒だといいながらなにかを散布し、それが原因で放火の際に草もないところすら燃えるようになったと推測できる描写がある。しかしすくなくとも散布より一日立っているのにいまだに強く引火できるその物質はなんなのかということだ。石油類や動植物の油などは自分の家の付近に散布されたひとが消毒液などでないことを触感や匂いなどで不審がるだろう。そもそも舞台の河川敷はホームレス同士で盗難があるなどかなり不信感が高まっていた。描写されてはいないものの暴力によるホームレス同士の物資の強奪が起き得るためぴりぴりしたなかでそのような匂いのものを散布できるだろうか。消毒液に使われるエタノールや他のアルコール類は匂いでは騙せるものの、散布する程度の量では長くても数時間のうちに蒸発してしまうだろう。ジエチルエーテルやアセトアルデヒドなどは瓶などに入っていても開けてしまうとみるみるうちに揮発してしまう。揮発しにくく、むしろ対象に染み込ませたりして初めて燃える灯油などは多少あり得るにしてもやっぱり匂いでばれてしまうんじゃないだろうか。それに相当な量を散布しなければ引火しづらいのではないか。べつに事前の手筈なく灯油を染み込ませた松明だけでも枯れた草木とダンボールであふれるホームレス地区なら十分もやし尽くせるようにも思える。
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