彼女が芥川賞を受賞したときの作品を買おうと思っていたのになんとなく忘れていた。
忘れていたら数年がたっていたから、なんだかハードカバーなのが高く感じられて文庫本になるのを待つような感じになってしまった。
ハードカバーの価値は豪華初回版みたいなものだと思っている。だから出版社もこれから生き残るためになにかもっと特典つけてくれたらいいのにね。作品のカバーと同じ柄だったり作者の写真を切り取ったしおりが入っていたりするくらいでもいいから。しおりの収拾が趣味の人っていたりするからね。
長い閑話休題からはじまって申し訳なかったけど小説はとてもよくできていた。構成がとくにしっかりとしていて、まだ若い作家であるのにもかかわらず入念なつくりこみは今後さらに彼女が活躍することを約束していると思う。
夫とともに夫の実家へ帰省したおり、夫が計画していたサプライズ日帰り温泉旅行は作物の収穫があるからと一蹴され、子供ができたらいけなくなるから二人だけで行って来いと言われた二人は温泉へ行った。夫を産んだ女のしなびているだろう身体を見なくても済んだと思った彼女は湯の中で、先客だった老婆二人が話していた出産の話に耳をそばだて「産まんてか」という相槌に鳥肌を立たせるも犬の話だったことに安心すると同時にその話に食いつき、彼女らに話しかけ生まれた子犬を譲ってもらう。帰宅後その犬をずっとかわいがっていてふたりきりのときにその子を持ち上げると犬が「産まんてか」と言って物語は終わる。
呪いというのは実際のところ相手に後ろめたく思わせる行為だと思う。後ろめたい気分のとき人はさまざまなミスをしたり悲しい出来事がより悲しく感じられたりする。それが呪いとして表れることの本意だと思う。小説はまるまる主人公が義母に感じている、まだ子を産んでいないことへの後ろめたさそのものだ。老婆ふたりの話でその後ろめたさを刺激されていた彼女は犬のことだったので過剰に安堵し、その落差から気が大きくなって犬を飼おうとしたが、それはそのまま自分で言い訳をし慰めようとしていることの裏返しでもある。しかし子犬を育てるという擬似育児でもってしてもその後ろめたさは満たされず、かえってそのことで追い詰められる今後を暗示する犬の一言で締めくくられる構成は見事だと言わざるをえない。
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