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 評論家は評論家になるまでは最高の読者だったのか
 コメンテーターという謎の人種がスポンサー様の意向通りに信念も無くコメントしているのを美幸は相互的になったのに相互送受信しないテレビより見つめていた。眼のしょぼくれた実は子供嫌いの子供向けニュース解説者がX軸のゆがめられたパネルでもはや本来の意味とは違うほどにわかりやすくニュースを解説していた。美幸はあんまりテレビに興味もなく出演者たちの顔真似をしていたが、なるほどこんなに感情を大袈裟に顔で表してばかりいたら話が聞けないわけだ。美幸はひとり頷いた。
 ふとチャイムが鳴ったので立ち上がり扉を開くと侑芽実がいた。侑芽実はヴァネッサ・ハジェンズのように黒い光沢ある髪を一癖たゆませていた。
「あたし弱者になりたい」と彼女は言った。
「弱者…」
 美幸は侑芽実に誘われるままに鴨川へと歩いてきた。夕方の鴨川を出町柳から北へ向うと自転車の二人乗りをする高校生の男女や男同士などが通り抜けてその度に近くの老人たちが「危ないやろ降りろボケ」と叫ぶのを聞くと美幸はああ鴨川は平穏だと再確認する。
「弱者って最高じゃんってあたし思う、弱者だからって優遇してもらえてしかもめんどくさいことはしなくていいしだって弱者だから!」
「そうかな」
「そうだってあたし思う、ほら普通っていいなーとか言いたいもん」
「じゃあもうあとちょっとだけ食べればいいんじゃない?」
「どういうこと」
「インシュリンが入ったペン型の注射を買えるようになるかも」
「あのね美幸、言っとくけど、あたし太ってないから。ただちょっと骨太で、ただちょっとカロリー消費が下手なだけだから」
「でも弱者は弱者じゃない?」
「あたしはもっと都合の言い弱者になりたいの、人に自業自得とか言われる類いのものはだめなのつまり、てんかんも、もう免許隠して取れないから駄目として……なんか見た目でわかる、哀れんでもらえて……美幸も考えてよ真剣なんだからあたし」
 鴨川では多くの恋人たちがごつごつした石のうえに座っていた。彼らはアピールをしたいだけだった。京都の人間で一体誰が鴨川など眺める? 行乞の坊さんだって橋の上で川にそっぽを向けている。美幸は鴨川で美しいのは川端通沿いの枝垂柳だと考えていた。
「むかし飲んだ時に侑芽実、自分は同性愛いけるかもしれないとか言ってたよね」
「あれはなんとなくかっこいいと思ったから! ていうか、あたし思うんだけど、あれはもはや弱者じゃなくて単なる少数派だし、そんなの夢の国でメディア呼んで結婚式できるだけじゃん」
「なんでそんな弱者になりたいの?」
「だって最高じゃん! 同じ講義とってる子で帰国子女がいるんだけどね、数年海外に居ただけで日本の文化についていけないとか言って、みんなにちやほやして貰えるんだよ、何か失敗したら『ううぷす』って言っても誰もが許してくれるんだよ、エーエムピーエムのことAnte meridiem, post meridiemとか読んで許されるんだから、あたし思ったの、あたしあんまりちやほやされてないって、なにか問題があったらちやほやされるんじゃないかと思って。でもほら、見ての通り健康じゃない?」と美幸に決めた顔をする。
「わからない」
 二人は三条大橋にまで来ていた。対岸ではもうすでに大学生たちが群れていた。彼らはもちろんうるさかった。
「あたし思うんだよね、特別じゃないからあんなに騒がないと目立てないんだよ、彼ら。だからあたしは決めたの、弱者になりたいって。そしたらだって、いいなみんな普通でとか呟けるんだから、最高じゃん」
 対岸の人々は逃げがちな青春を食い止めようとしているのか声をはりあげ、その度に周囲の反応をうかがおうと、誰か自分の話に驚いてくれなかったかきょろきょろして、むしろ彼らそのものが青春によって操られる増幅器のように、
「おい真冬に満点の星空もとのセックスを無修正で撮ろうとしたらどうなると思う?」
「おいおいどうなるんだ?」
「プラネタリウムで擬似精液を打ち上げるのさ」
 などのつまらない笑いで抱腹絶倒し笑いゲロまでしていた。
「でももしかしたらさ、特別な人からしたら普通は特別だと感じるんじゃない?」美幸は彼らの吐いたゲロが鴨川に流れてゆくのをみつめつつ言った。
「えどういうこと、あたしわかんない」と侑芽実は首をかしげる。
「だって特別になろうと思って特別になんてなれないと思う」
「難しいよね、リスカする子もリスカする子たちでくくれるし」
「特別な人は自分が普通だと思ってて、普通な人たちはすごい量の特別な人になるんじゃない?」
「そうなのかな?」
「だから特別になろうとしてる人はみんな普通の人だよ」
 対岸がうるさくなった。大学生たちが円を組んで歌い出した。夕日がまさに消え失せオレンジ色の世界が冷めてゆくのを二人は見た。
 四条河原町に溢れた
 様々な人をみていた
 自分の中では違うつもりだけど
 どれもみんなふつうだね
 この中で自分が一番だって
 争いもせず決めつけて
 雑踏のなかで区別がつかないけど
 堂々と胸を張っている
 それなのに僕ら学生は
 どうしてこうも比べたがる?
 どいつもこいつも大差ない中で
 特別だと信じている?
 そうさ 僕らは
 自〜称とーくーべーつーなにーんげーん
 一人ひとーりにたりよーったり
 人と違うように見せかけることだーけに
 一生懸命になっていーるー

「でもあたし弱者になりたい」と侑芽実は大学生の歌を無視して言った。
「まだ言ってるの?」
「特別扱いされて働かなくてよくてでもしたいことはして自分に都合の悪いことは差別にできるようにしたいもん」
「それって今でも満たされてるじゃん」
 京都の夜はまだ始まったばかりだった。
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