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 総ての順位が上から数えられるわけでない。
 悔しさで歯ぎしりする顧客の影を掴んだとき、実はその意味を知った。人が口を開かなければ影はとたんにおしゃべりになる。自分はあの男の次の候補なのだと俺は考えていた。それはまるで上位者が消えれば自分こそが上位者になるものじゃないか。俺が呼びかけたシェアハウスの話に二人の女と一人の男が乗った。同じ大学だったが、学部はそれぞれ違った。一人の女はまさに俺の好みだったが、ある夜泣きながら帰宅したかと思うと翌朝には大学からも去っていた。もう一人の女、器量はそこそこながらとても気のきくやさしい女じゃないかと俺は気づいた。胸も悪くなかったし。だがあいつはあの男、同居人良樹を好きなようだった。俺がどれだけあの女にやさしくしてやろうとも、女は良樹とばかり話した。三人で話していたとしても俺が口を開けば嫌味のように会話が止まった。俺は腹が立った。
 ある夜俺はこうなったらあの女を力づくで手に入れようと部屋へ忍び込んだ。真暗な部屋にはむせかえる女の臭いが充満していた。はじめて知った女の部屋だった。女の寝息がかすかに聞こえ俺の耳はぞくぞくした。かわいらしい寝間着にくるまっているのを見て興奮はいや増した。そして手、弱さそのもののように柔らかそうなその手、この俺の手のように発汗しているのか、確かめようと人差し指がそのふわふわした肉をつついた時、女は跳ね起きて、戻ってと言った。君の気持ちはわかってたけど私は君を好きになれないから、もう少しでも近づけば叫ぶから。
 なら、誰が好きなのか。
 良樹君……。
 あいつは確かに俺よりも顔がよかった。あいつ、あいつがいなければ、いやせめてあいつの顔がだめになれば。そうしてふっと闇から湧いたように部屋に現れた大学生を名乗る男に影を代価に良樹の器量をまずくしようと言われた。俺は影そのもののように出現と消滅を繰り返す男の話に乗った。
 そしてその翌日、俺がいつまでも大学から帰って来ない二人が気になり友人に聞いて回れば良樹が事故に巻き込まれ二人病院にいることがわかり、俺は嬉々として病院へかけていった。
 病室では二人寄り添っていた。老ドライバーがお家芸の踏み間違えで二人のいたコンビニへ突っ込んで来たとき良樹は女をかばい飛散したガラスを一身に受けたといった。良樹はありがとうわざわざ来てくれてと包帯にまとわれた内側から答えた。
 自販機の場所を案内してくれと言って女を連れ出し俺は早速女に言い寄ったが女は俺に平手を打った。
 良樹が大変な時になに考えてんの。
 だがあいつはもう駄目な顔だ、俺の方がましだろ。
 女はため息ひとつはいた。
 わかってないようだから言うけど、彼の外見だって私も好みじゃないから。でも好きなの、わかる? たとえこの世に人間が私と君だけでも私は無理。この世から男前がいなくなれば自分が自動的に一位だと考えてない?
 女は立ち去り、俺は座り込んだ。
 そこへ実が現れた。彼は知っていた。怪我はすぐ直るものだということを。これを境に献身的に介抱する女に良樹という男が惚れ直したこと。女は愛する者を看護する時、どれほど美しくなるだろうか。そしてただ、この三人の誰もどうお世辞を尽くしたって良い器量など持ち合わせていなかったこと。この絶望した男の、良樹の顔をまずくしてくれという要求をのみながらこれ以上どうまずくしようがあるのかと実は考えていたのだった。彼は男の、形のいびつな影をデミタスカップに納めて飲み干した。
 カフェオクターブへと実は帰った。その時ちょうど入って来たのは由比だった。由比はもちろん魅力的な顔をしていたが、あまりに死にたがるので実は自分がこの女といるのを想像できなかったが、彼女は恋人にことかかなかった。なぜなのかと実が尋ねると、ピッコロラテを頼みながら由比は鼻のぶつかるほどるに顔を近づけながら言った。
「結膜にあるしみに気づかせるの」
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