上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 大きなものが小さなものを押しつぶすのは鉄のかたまりが大きな音をたてて落ちるように簡単に想像できるのに、小さなものが集まって大きなものを押しつぶすのは鉄と同質量の綿のかたまりが落ちても大きな音がなるのかという疑問ほどに想像がつかない。
 僕はバーカウンターに座ってどこでもない象徴的な一点を見つめて考え込んでいた。
 そのカウンターの向こうにはおとといに初めてのデートでキスをしたばかりの恋人がいる。しかもすこし年上だ。だからそれゆえに彼女はもくもくと彼女の仕事をこなしている。別にまだ他に客もきていないし、マスターもまだ顔を出していないけれど、双子の姉みたいにつんと僕の頼んだ酒にとりかかっている。
「やっぱりまだ幼いね」
 彼女が僕にくだけた口調を使ったのはその酒を差し出したその時だけだった。あとはまるで事務的な確認作業のように僕らはもう互いに知っていることについて、社交的に語り合った。実のところそれはとても楽しい行為だった。
 オーセンティックなのにコールドプレイがかかるそんな店内で僕は黙りこんで、再度考え始めた。
 僕は昨日夢をみていた。それはふしぎな国についてのものだった。
 そこは王様が何人もいる国だった。正確には一人なんだけど、何百ものちいさな王様が集まって大きなひとりの王様みたいに玉座にすわっている、そんな王国。その国では隣国と戦争するとき、すべてのどんな小さな部隊にも王様がついていく。部隊長の肩や頭に小さな手のひらほどの王様が立ったり座ったりしていて、直接戦況を同時に見ている。何百人もいるといっても実際のところはひとりだから意識がつながっていてどんな状況でも臨機応変に対応できるのだ。
 だけど戦争は消耗するものだから、兵士が死んでいくのに合わせて王様も死んでいく。徐々に、徐々に。毎朝、玉座に座るとき、王様が少しずつ小さくなっていく。死んだ小さな王様の数だけ自分を縮小しなければならないから。そしてある日、王様がたった一人の小さな王様になる日がくる。
 もうだれも王様の威厳に気づかない。王様がどれだけすばらしくても部下には足下にいる王様が見えない。そして王様はある日新しい玉座をこしらえて持ってきた大工に踏まれてついに本当に死ぬ。
 そんなことについて考えていた。もちろん答えがでるものじゃない。だけど僕にはそれが恋人が働いているバーで酒を注文してまで考えるものごとのような気がする。あくまで気が。
 だけど僕には最後の一滴を飲み干すまでよくわからなかった。彼女がまじめに仕事をしながらも、ときおりいろいろと考えている僕をみてそっと小さく微笑むからだ。そんなかわいい仕草に考えるという行為が勝てるはずがない。
 代金を払ってもう彼女だけのものになる店を出るとき、かわいいよと言われてキスをされた。
 僕もちいさく分裂しそうになってしまった。
関連記事
スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。